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「ヒナの眸」(4) [児童文学・小説]

「…あなた、また、満つに入ったのね。」

日目(ひめ)の上は、月見堂の紙袋にいっぱい食べ物を抱えてきた月見の宮(つきみのみや)を見て、微かにあきれた風情で振り返った。日目の上が手掛けていた文机には、山と積まれた巻子や書類が広げられている。

「いやあ、毎日お勤めご苦労様です。姉上」

にたーっと笑顔を浮かべて、あんパンを片手にもぐもぐ頬張りながら、満つに入った月見の宮は太った体を揺らしながら、長椅子に座った。満足気だ。満つに入った月見の宮は、始終食べ続ける。朔に入ると途端に食が細くなる。夜の食(お)す国を統べる、日目の上の双子の弟。満つと朔を繰り返す。ぶくぶくと巨体になるのも必要な時期で、これがないとあまねく天(あま)の下(もと)は生きていけない。姉弟は透き通るような白い肌、衣を透して光り輝くような美貌は、生き写しだった。

「織部の姫が死んだそうですね。」

姉の顔は、瞬間、凍りついた。
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雑文 etc.

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