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「ヒナの眸」(2) [児童文学・小説]

海の底深くにある、わだつみの いろこの宮は珊瑚と真珠、さまざまな宝石と金で彩られた宮殿で、海の泡がところどころから吹き上がっていた。宮の周囲には紅珊瑚の塀がめぐらされて、中は1つの街のようになっている。実質上の海の中の都だ。

あたたかい海水に囲まれた宮から天上を眺めると、波の波紋が光を反射して透きとおり、光の帯となって幾本もふりそそいでいた。階(きざはし)のように見える。淡く薄い紺碧に染まる天の水面(みなも)。

「・・・あの階をのぼって行けば、天上の父上や姉上たちに会える。」

心ひそかに恋しく慕ってやまない光るようにうるわしい姉、日眼の上(ひめのうえ)がおられる。海上のさらに上、蒼天の頂(いただき)にあり、雲母たなびく天空の宮殿、たかまがはらの宮。天下を広く照らすと称されるほどの日の光に輝く日の宮に、風息(かざおき)の姉はいた。そこで、父の命(めい)を受けて、日の光の照らす地上をあまねく統(す)べていた。

記憶の中の姉は、透きとおるように白くなめらかな肌を持ち、切れ長で漆黒の眸を持つ、幼いながらにうるわしい人だった。――もう、長いあいだ、姉上ともお会いしていない。

 

 


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