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「きみに逢いたくて」(3) [小説]

夢を見た…ような、気が、する。

おぼろげな記憶をたどりながら、眼鏡をさがす。
今日は、何日だっけ?
ケータイ。…ケータイ、ケータイを見れば、今日がいつの何時なのか、分かる。

12/01(火) 03:24am

ケータイの表示は、現在の日時をそう告げてる。
暗闇の中に光るケータイの画面をスライドさせて、カシャと閉める。

――また、夜中に目が覚めてしまった。

毎日のように、夜中に何度も目を覚ます。夜寝るときも寝付けないで何時間も過ごす。…眠れない。

でも、いい夢をみていたような気がする。映画みたいな長い夢。楽しくて、おもしろい夢を。あの夢の中にもどろう。
そして、まどろみの中にもぐって行く。

そうだ。明日になれば、彼に逢える。
それまで、楽しかった夢の中でたゆたっていよう。

現実逃避。きっと、これは、そういう類のもの。でも、居心地がよくて、あたたかい毛布にくるまれているようで、そこから抜け出せないでいる。なにか、夢中になれるものが、ほしい。

彼に逢っているときだけが現実にもどって生き返っているように感じる。
それ以外の自分は、屍のようなもののように感じる。

あまく、ゆるやかに抱きかかえてくれる夢のゆりかご。
逢瀬のときまで、そこで、まどろんでいよう。


「きみに逢いたくて」(2) [小説]

左手でギターを手に取る。

右手の人差し指には、黒いビニールテープが巻かれている。指を保護するためだ。夢中になって弾いていると、弦に指が当たって、いつのまにか血がにじんでしまう。だから、保護テープを巻く。思いっきり爪弾くために。

このあいだ出来上がったばかりの曲を練習しているところだ。すぐに、ライブが始まる。練習不足のままの状態で初日を迎えたくない。ツアーのスタートから飛ばしていきたかった。1か月以上間があいて、楽しみにしていたツアーだった。

 

・・・初日には、あいつも、くる。

 

このあいだ、逢ってから、もう10日も経っていた。壁に貼られた安っぽいカレンダーを眺めるとも眺めながら、カイは思った。



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「きみに逢いたくて」(1) [小説]

猫が、膝でじゃれつく。

 

「あいたいな」

って、思う。

 

もうすこし。あと、すこしで、あえる。

日の短くなった秋の昼下がり、ユノはカレンダーを見ながら、つぶやいた。

 

 


雑文 etc.

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