「ヒナの眸」(3) [児童文学・小説]
「ったく。ぐずぐずすんなよ。」
ぺっと唾を吐くように言い捨てるカンタは、シャキシャキした物言いをする。風息(かざおき)とちがって、こうと決めたら意志を曲げない。ひとつのことにこだわらない。真っすぐだ。回りくどいことが大嫌いだ。
風息が女の子のような風貌で、やさしい性質なのを知っている下女たちは、カンタがいないときを見計らって風息に冷たい仕打ちをする。言葉にするのももうしわけないような、取るに足りない仕打ちだ。この宮(みや)の主(あるじ)は風息なのに。
風息は、夜になるのをおそれていた。
「・・・剣の稽古の時間だろ?」
「行けよ。」
カンタの言葉に、視線を足元に落としたままでいた風息は力なくうなずいた。
2009-12-09 13:53